三谷 康


 三谷幸喜と秋元康は全く違う人格と才能を所有する人物であることは当然すぎる事実だが、TV的には(もっと言えば、ナンシー関的には)同一人物のように思えるときがある。TV的にということは、要するにどうでもいいということであり、一笑の価値しかない。しかし、ただ思えてしまうというTV的レベルで、私たちの大方の日常は過ぎてしまう。

 秋元康は著書『君らしさを僕は知っている』(幻冬舎文庫)の中で、”魅力的な中年は年齢にボーダーラインを引かない”とさりげなく述べている。口先だけの理想論ではなく、現実問題として、これを真剣に受けとめ、実際に求める水準を獲得するためには、少なくも三段階のアメリカン・マニュアルの目標達成が必要不可欠だとZENは考えた。

 第一段階・・・ ”しょせんオレはジジイだよ”というふてくされた自暴自棄の心理的条件反射の習慣をスッパリ切り捨てること。
 第二段階・・・ ”いいや、オレはまだまだ若いんだ”と気張って、若者と何でも張り合おうとして、体内のアドレナリンを刺激する感情的条件反射の習慣をスッパリ切り捨てること。
 第三段階・・・ 自分に向けられる”ジジイ”とか”若い”とかいう言葉に対して、手から微量の汗を放出し、ウソ発見器の針を動かしてしまうような物理的条件反射の習慣をスッパリ切り捨てること。

 上記の各ステージを克服して初めて、秋元康が書く以下の文章の境地に至るのではないだろうか。

「年のことを気にしない人は、何事にも若ぶらない。年齢にこだわらない人は、何の迷いもなくエスカレーターをスーッと上がっていくと思います。」(17P)
「自分から中年という線を引かなければ、おのずと道は開けていきます。さあ、あなたはどこへ行きますか? 何を始めますか?」(260P)

 ZENは本書を鼻ふくらませて一気に読了し、裏表紙の帯の一文を最後に目にしたとき、重大なことに気づいた。
”秋元康は、三十代の女性向けにこの本を書いたのか”

BACK