二本映画


映画1「みちのく日本晴」
(レビュー)
 馬の首にはなだ色のちゃんちゃんこを巻きつけて、額が異常発達した六歳の牝馬ヒンギスを走らせるのは、世界平和をいつも夢見る腰痛持ちの調教師、佐々木等人である。「ヒンギスは陸奥の地方競馬で天才的な走りを見せ、中央競馬に進出するという大出世がついに現実まじかとなる」という画面いっぱいの迫力ある手書き字幕によって、観客はヒンギス号が稀代の駿馬であることを、かろうじて推測することができる。
 ところが、中央進出を目前に控えた地方競馬での最終レースで、ヒンギスはゴール直前で失速し、右前足を骨折してしまう。競争馬としての生命を絶たれてしまうのだ。地方の人気馬ならではの酷使からの疲労が原因だった。これも、画面いっぱいの手書き字幕でわかるのだが、今度はバックにうっすらとヒンギスらしき馬の疾駆する姿が(競馬好きならハイセイコだとすぐわかるが)シルエットで映し出される。
 ラストシーンで監督の千葉海男が、薬殺されたヒンギスらしき馬を前に、他の役者陣を押しのけて、演技など振り捨て、一人号泣している姿がアップとなり、何とも痛々しい。(映画にリアリティーを与えるために、本当に一頭、病気の老馬を安楽死させたそうである)
 美しい陸奥の自然の四季をとらまえた静止画像が、この映画全体の90%以上を占めるのにもかかわらず、白黒作品なのが惜しい一品。



映画2「プラスチック短歌」

(レビュー)
 短編映画である。馬鹿のくせに自分を天才と信じきっている宇宙人Rが、地球の中のアジアの中の日本の中の東京の中のJR南部線、武蔵溝の口駅に出現する。(撮影場所が限定されている。映画が低予算であると即断可。)
 宇宙人Rは日本の20代のオスの若者の姿で、駅に隣接するホテル・メッツの階段を下りて、おいしい珈琲の店を探そうとするが、ドトールとかコロラドとかスタバーとかのチェーン店ばかりで、なかなかこれという店が見つからない。駅前から離れたバス通り沿いで、MALLORY WISEという素敵なカフェをやっと発見して、Rは安堵する。
 店内にはボブ・ディランの「ミスター・タンブリンマン」が流れている。風呂好きのマスターは夕方になっていたので、近くのサウナに行ってしまう。Rはキュートな店の女の子に宇宙語で「ニューヨーク・チーズ・ケーキと珈琲のセット」をたどたどしく注文する。そこで、シーンがガラリと一変する。
 Rがスクリーンに向かって、ア、イ、ウ、エ、オの口の形を大げさに作って、それを何度も繰り返す。(地球で初めて知り合ったサテンの女の子に一目ぼれして、地球の日本語の練習を開始するのを暗示しているらしい)
 シーンがまた変わって、Rは宇宙人の格好をして、たそがれの多摩川べりを全力で走っている。走り方がドンくさいので、スタッフ(声のみの出演)からダメ出しされる声が入ってしまう。もつれる足をさすりながら走り続けるが、突然、左足に鋭い痛みを覚えて、Rは倒れこむ。東急田園都市線が鉄橋を通過する音が聞こえて、画面は暗くなる。
 昼下がり、Rは右足首を包帯で巻いたまま、宇宙人の格好をして南武線の武蔵溝の口駅の改札口に立っている。そのうち、痛む右足を軸にして、身体を回転させ始める。まわりの通行人たちは驚いてひいてしまう。そのうちJR職員がやって来る。Rはカメラの方向を指さして事情を説明する。あわてたカメラマンはカメラを隠したため、画面が一瞬、大きくぶれた後、真っ暗になる・・・・・、果たして、宇宙人Rの処遇及び撮影スタッフのその後のJR職員への釈明は・・・・。 
 いかにも学生が作りたがる青臭さが満載の舌足らずな大駄作だが、監督の芝木省三は六十七歳のベテランだというから驚く。この映画が与える一番の衝撃である。主題曲は、現在人気沸騰中のシンガー・ソングライター、アンジェラ・アキのファーストアルバムに収録されている「宇宙」♪



※ 以上の映画二作はいずれも七夕の夜、風餐氏の夢の中で上映されたもの。

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