テキサスの洪水


 東京に24軒のロック・バーが存在する。その中の一つに、四谷荒木町の「TEXAS FLOOD」(テキサス・フラッド)がある。荒木町といえば、飲んべいなら知らない者はいない酒飲みの名所だ。その横丁のド真ん中、柳新道通りにマスターの関根章さんは店を構えている。2003年4月の開店から間もない7月12日の夜、パジャマ姿のZENはここで、ポエム・リーディングを挙行した。パジャマを着て裸足で朗読した理由は、はるか昔の学生時代に自作の芝居を演じたとき、当時好きだった女の子から借りた桃色のパジャマを着たことを突然、思い出したからだ。そのとき観客の一人だった童話作家の森忠明さんから「パジャマのマルドロールのおっさん」と呼ばれたのが懐かしい。若いころの自分に戻れればパワーが蘇るだろうとあやかってみた。ディープ・パープルの名曲を一つずつかけ、その後で、訳詩を朗読するという趣向だった。

 訳詩といっても、風餐流に味付けがしてある。原詩のウラの卑猥な意味を笑いながらいろいろと教えてくれた英国人のジャンニ・ジオスー(フールとは別人)に、この場を借りて感謝したい。君がいなければディープパープルの歌詞は、CDの中に入っているうわっつらな訳詞のレベルの理解に終わっていただろう。パフォーマンスのデキが良かったかどうかは全くわからないが、とにかく「バカヤロー」という気持ちで声を張り上げた。何がバカヤローなのかは今もって不明ですが、見に来て下さった皆さん、本当にありがとう!

 そんな縁もあって、ときどきテキフラ(店の常連さんが呼び合う店の呼び名)にフラと立ち寄って今に至っている。店名のテキサス・フラッドは、関根さんが好きなスティーブ・レイボーンの名曲のタイトルである。関根さん自身、バンドを組んで、現役でドラムをたたいて定期ライブをやっている。団塊の世代とは思えぬ若さだ。サラリーマン生活を一蹴して開店した当時と較べて、今は、風貌も所作も後戻りできない迫力に満ちたロッカーそのもの。ロックの力をまざまざと思い知らされる。ロックは死ぬまでできるものなのだ。

 客層は70年代にロックに目覚めた40歳代の男が圧倒的に多い。店は午後7時から午前4時までなので、客がいっぱいになるのは夜も本格的になったころだ。ZENは早いうちに入って、聴きたい曲をリクエストするという”戦法”を使うことがある。ホンネを言えば、ロックの生き字引のようなマニアの常連客たちが席を埋める時間帯になると”お勉強”で、じっと曲を拝聴するしかないからだ。皆さん、本当に良く知っている。関根さん自身は、『団塊世代はロックというよりフォーク世代だから、大量に退職した後、ロックに戻る連中はあまり多くはない』とクールに分析している。しかし、逆に言うと、関根さんは先見の明があったわけで、年下が知らない有名なグループの初来日ライブとかヒットソングをリアルタイムで体験しているから、ZENなどにとっては教祖的存在になる。


 週末の夜(労働者階級)はご入金
 癒されない奴 お馬鹿さん
 あいつもこいつも やりまくり
 硬派なお方も 軟派なキミも
 始まっちまえば みなチンポ

 だって私 オチンチンの王様よ
 歌うのを聞いて
 私は早撃ち王
 ねえ 飛ぶのを見て!

   (スピード・キング BY DEEP PURPLE)

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