風餐判定 東武東上線 編


 志木×、朝霞台△、朝霞×、和光市×、成増×、下赤塚◎、東武練馬×、上板橋×、ときわ台○、中板橋○、大山○、下板橋×、北池袋×

 これはZENが主観で判定した東武東上線駅前判定である。判定基準は、ただ一つ。センスの良い地場喫茶店が存在するか否かである。こういうことを書くと、志木には「PRINCETON」があるではないかとか、朝霞には「珈琲えぽっく」があるではないかとか、和光市には駅から少し離れているが「KITRI」があるではないかとか、上板橋の「シャドー」はどうなのかとか、あるいは下板橋の「TAKASE」はどうかとか、北池袋の「PRICRAJU」を入れてもいいのではとか、東武練馬の「IF」は一体、どうなったのかとか、さまざまな異論反論が出てくるでありましょう。

 しかし、喫茶店オタクのZENとしては、一つの定式を持っている。それは、チェーン店である「珈琲館」や「COLORADO」が設定するドリップコーヒーの質を基準にして、コスト・パフォーマンス(必ずしもコーヒーの味だけではない。店の雰囲気や座り心地や店員の対応や内装のセンスなども当然、すべて含まれる)において劣る店は全て却下されるということだ。厳しいようだが、そうしないと、チェーン店で安いコーヒーを飲んだほうがいいではないかということになるからで、独立店でコーヒーを賞味する意味がなくなってしまうからである。また、スタバーのようなマシン仕立てのコーヒーを出す店は最初から判定の中には入らない。

 上記の印の意味ですが、合格の店が一店の場合は△、二店の場合は○、三店の場合は◎である。和光市の南口駅前のように、ドトールをはじめとするありとあらゆるチェーン店カフェやレストランが林立していても、しっかりと地域に根づいた喫茶店がない場合、そこに文化があるとは思えない。文化とは、この場合、無駄であり、偏屈であり、無謀であり、反骨という意味合いを持つ。なぜなら、喫茶店というのはそもそも儲からない形態だからで、敢えて店を構えるところに経営の精神がおのずと醸し出されてくるからだ。

 素敵な地場喫茶店があるところは、大概、駅前自体が魅力的である。ZENは下赤塚の界隈、中板橋の界隈、大山の界隈に魅了される。いずれも良い気が流れている。どういう気かというと、一言でいうと、庶民が肩肘張らずに目尻を神経質に引きつらせることなく、歩ける場所が持つ穏やかな気である。どこどこのニュータウンの駅前(固有名詞は避けます)のような、行き交う人々がお互いにお互いを監視しあうような、競合しあうような視線の中で、買い物をしたり、食事をする場所、そこにいるだけでストレスで胃痛や腰痛を誘発しそうな場所とは正反対のことを指します。「あいつは小さいころは洟垂れ小僧だったが、東大に入ったよ」とか、「あの魚屋の娘は町で噂の美人だったから女優になった」とか「あれは手のつけられない不良だったが、今じゃ支店を持つ不動産屋の社長になっちまった」とか、「あいつは教室の隅で本ばっかり読んでいたから、古書店主におさまった」とか、そういう人間のDNAと環境の交錯が等身大で語られる界隈というのは、実は日本人独自の民主主義が生んだ優れた文化土壌なのだが、それが消えていく危惧を感じるのはZENだけだろうか。風餐は、何よりも、路上や界隈に対する思いが深い。

 ZENは△や○、◎をつけた駅のセンスある地場喫茶店の名前を公表しません。が、一つだけ明かします。ときわ台です。喫茶ウイーンです。北口です。最近、駅前に「DE LA NATURE」という小粋なカフェができましたが(閉店が早すぎると思う)、そこではありません。徒歩5分以上かかります。喫茶ウイーンは先代の方が引退したが、引き継いだ方が店の”味”をしっかり伝承していらっしゃる。コーヒーの味のことではありません。ここの店のコーヒーはマズイ。お世辞にも美味くない。が、店の雰囲気は”喫茶の殿堂”というに恥じない。今では誠に希少なる豪奢さを持った喫茶店である。ときわ台の南口は「プロムナード」や「珈夢居」をはじめとして7軒も地場喫茶があるが、ウイーンの迫力に優る店は存在しない。それだけ、この店がスペシャルだということです。



追伸 
 東武東上線は大山から成増まで板橋区を貫通する(南口側が豊島区や練馬区にかかりそうな微妙な駅もいくつかありますが)”板橋的”路線であり、小田急線の”世田谷的”、東急東横線の”目黒的”、西武池袋線の”練馬的”とは異なる風情を持っている。しかし、真に板橋的なるものは、中山道沿いの板橋宿にある。ここには、東京の他のどこにもない雰囲気が美しく生きている。こちらに足を踏み入られた方は、石神井川にぶちあたるまでだらだらと北へ続く仲宿の商店街の中心に店を構える「喫茶 高山」に立ち寄られることをお勧めしたい。

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