鈴隆界


 かれこれ鈴木隆彦とは30年近いつきあいである。自分よりも先に他者のためにという思いが強い男。誠に霊格の高い人間である。この印象は最初に出会ったときから、私の中で微動だにしない。つくづく羨ましい魂だ。最近では故郷の宮城県で、廃線が決まった電車を貸し切り、村おこしのミュージカルを、総指揮した。NHKでも取り上げられたから、あるいはご存知の方もいらっしゃるだろう。地域のために廃線が撤回され、あるいは地域の足が別の形でも残ることを祈るばかりだ。

 私が彼を霊格高い魂という理由は次である。人は財産とか、宝とか、収入とか、異性とか、健康とか、地位とか、名誉とかをいくら所有したところで、死ねば全部パーです。ゼロ。しかし、他者を思う気持ちは、その人間に備わった魂の体現であって、死んで消えるものではない。ゆえにこそ、これを磨く場がシャバの世界。と、口で言うのはあまりに易いけれど、誰もが自分の肉体がカワいい。我欲が強い。そこで、我欲を追い求めて互いに争い、この世に執着するものが増せば増すほど、死が恐ろしくなる。死ねば、せっかく手に入れたものすべてを失うからだ。その点において、鈴木隆彦は実に爽快無比の生き方を貫いている。薬種商を営みながら、自分が住む地域のために日々、身体を投げうっている。

 彼が地域のために行うことが、うまくいっているとかいないとか、パフォーマンスの結果が大切なのではなく、彼がそうした魂を持ち続けていること、それが本当に尊い。私はかつて、彼にこんなことを尋ねたことがある。
「今までで一番うれしかったことって、何?」
「生まれてきたこと」
 彼の息をするような自然な答えかたに私はしみじみと感じ入った。私たちが生きていることの嬉しさとは、人の真言に直接、触れることだろう。携帯メールのうわっつらの一万行のやりとりに優るのだ。

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