京急賛歌 1


 京急(京浜急行)は、首都圏を走行する都市型私鉄のうちで最高のパフォーマンスを乗客に与えるがゆえに、ZENはそれを長らく愛し、意味もなくおりおりの駅に下車し、駅前界隈を散策してきました。
 京急の魅力について語り始めるとキリがありませんので、ここでは京急の未来の乗客の方のために二つだけ、京急利用者の常識をお伝えしたいと思います。

1、もしも品川から横浜の間を、JRでなく、京急に乗られた方は、京急鶴見を過ぎて、花月園前から生麦、京急新子安、子安、神奈川、横浜までの六駅間を、京急とJRの線路が並走しており、そこでスピード競争が激しく行われていることを知った上で、京急の快速特急(快特)自慢の時速120キロの独特なスイング感を楽しんでいただきたい。幼い子供は自転車に乗って、あるいは駆け足で、自分が電車に成り代わって走行音を自ら声に出しながらの電車ごっこというものに夢中になり、脳内で大量のベータエンドルフィンを分泌させます。これこそが人間だけの持つ快楽ですが、大人になると、この快楽ホルモンを出す習慣をすっかり忘れて分別くさくなってしまい、京急の車窓から真近に見えるJRの東海道線が少しづつ視線から後退していく風景にも何ら感動もせず、ただ日常の一シーンとして流してしまう。しかし、人間の生命を活性化させるのはベータエンドルフィンという快楽物質であり、世の中で大きなことを成す人々の脳内からは、このホルモンが大量放出されていることがわかり始めてきました。要は、長嶋茂雄のように、子供のような夢中さで野球を楽しんでいる状態です。もしも、大人になっても子供のように何かに夢中になっている人間のことをオタクと呼ぶのなら、それは最高の人生の代名詞といえましょう。
 ここで一つ、注意しなければいけないことがあります。京急線には都営地下鉄浅草線、京成電鉄、北総線、芝山鉄道が相乗りしており、それらにも京急と同じ、快特がありますが、そうした他社線は120キロを出しません。ですから、この快感を味わうためには、赤色の京急に乗られることをお忘れなく。
(ただし、京急は稀にブルートレインという青一色の塗装を施した列車を運行させています)

2、京急は連結と切り離しを柔軟に行います。例えば、金沢文庫駅で、品川行きの8両の後ろに羽田空港行きの4両がくっついて12両となり、200メートルを越える長さの快特列車として北行(ほっこう)しますが、(快特が猛スピードで駅を通過するとき、音のピークが2回来ることがあるのはこのため)同じ列車が今度は京急川崎駅で、再び品川、泉岳寺方面行きの8両と羽田空港行きの4両に切り離されます。京急がユニークなのは、駅での連結や切り離しの時間が1分くらいしかかからないということです。連結、切り離しの際に、車両が揺れることもありませんから、乗っていても、いつそんなことが起きたのかというくらいスムースです。
 なぜ、そんなに早くできるのかといえば、連結器が、さまざまな電気制御やブレーキ系統の複雑な連結をするのでなく、単純に車両先端の突き出し部分が握手をするように車両同士がくっついたり、離れたりするだけの機能になっているからです。

 京急は、京浜”急行”ですから、一秒でも時間を短縮して、目的地に到達するためのさまざまな工夫が随所に施されているというわけですね。早朝から、いきなり特急列車を走らせたり、深夜の最終列車が”快特”だったりするのも、いかにも京急らしい疾駆感を象徴したダイヤグラムです。

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