ニッポンを知る最良の方法


 コリン・ジョイスという英国の高級新聞紙の東京特派員が著した『ニッポン社会入門』(NHK出版)を読んだ。その著の冒頭に次の興味深い文がある。

「もし日本の社会を知りたいなら、プールに行けばいい。込み入った日本社会をくまなく教えてくれるとまでいかないが、三十分ほどの入門コースとしてはプールにまさるものはないだろう。それはおそらく、限られた空間にものすごい数の人たちが押し込められているからかもしれない。まさに日本そのものだ。ぼくは東京でひと泳ぎするたびに、なんとプールはこの国全体の縮図となっているんだろうと思ってしまう。」
「日本のプールを上から見れば、たくさんの人が整然と列になって、たがいに最大限の距離を取りながら泳いでいるのが目に入る。もちろん、ときには泳いでいる人同士、ぶつかってしまうこともある。しかし、そのようなときでも、日本人はおたがいに頭を下げあって解決する。実に平和な光景だ。」

「ひょっとしたら、ここまで言うと言いすぎになってしまうかもしれないが、日本人はプールの中でも、彼らが社会で要求されている役割を演じているように見える。」
「こうしたことはみなイギリス人とは大違いだ。イギリスのプールを上から見ると、ゴチャゴチャでワケがわからないことだろう。子供たちは大騒ぎして跳ね回っている。五十歳以上の利用客はいない。」
「大雑把に言って、日本で百人がうまく利用できるプールがあるとすれば、イギリスでは同じ大きさのプールでは六十人も入れば泳げなくなってしまうだろうし、八十人を超えると暴動が発生するだろう。」

 ZENはこの記述の信憑性を確かめるために、滞日英国人男性に上記の内容をそのままぶつけてみた。
 彼の答えは以下である。
「日本のプールは清潔でよく行き届いている。BUT、MANY、MANY、MANY、MANY RULES がある。プールサイドでの飲食禁止。ロープの張ってあるところは一方向しか泳げない。ターン禁止。潜水泳ぎの禁止。飛び込み禁止。15分ごとにホイッスルが鳴って外に出される。休憩中に体操しないといけない。刺青していると入場できない。・・・・・。僕はイライラして従業員に怒ったことがあるよ。」

 ふーむ。彼の答えはさらに続く。
「僕の友達は刺青していたから入れなかった。刺青(タトゥー)は船乗りの証明でもあるし、ファッションでもある。ヤクザじゃないのに。」

 そして、さらに僕と親しいこともあって、こんなことまで言ってくれた。
「僕が本当に怒っているのは、ルールがたくさんあることじゃないんだ。どの国だって、ルールはいろいろあるさ。問題は、ルールが何であるかの理由を従業員に聞いても全く説明できないことなんだ。『ルールだから。』としか答えられない。ここはヒットラーの国かい。だから、日本人はSTUPID”馬鹿”、CRAZY”基地外”って思われるんだよ。」

 とまあ、結構、日ごろのカルチャー・ギャップの不満を爆発させるジャスト・クエスチョンだったようだ。
 確かに、日本独自のルールがあることは問題じゃない。ルールの説明があれば、納得するのかと尋ねると彼は、「OF COURSE!(もちろん)」とのこと。

 国土交通省の皆さん。VISIT JAPAN キャンペーンもいいけれど、各観光地や公共施設は”ヒトラーユーゲント”を雇わないようにしたいものです。そうしないと日本嫌いの旅行者を増やすばかりですから。というか、これは教育の問題ですね。

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