伊藤真さん 憲法から企業を考える


 伊藤真さんは、司法試験をはじめとする法律試験の受験指導の専門家であると同時に、全国各地で一般向けにも法律知識の普及活動を行っている稀有な人物です。なぜ、私が伊藤さんのことをここで取上げたかというと、かつて伊藤さんと同じ会社に勤務し、一時期、取締役として決議の場などに同席していたこともあり、市民向け法律講座の企画実施にも関わったからです。ですから、当然、伊藤さんの人となりも知っています。一言、日本人に対し、真の意味で法律の意義を広めようとする固い決意を持った熱い情熱の持ち主であり、単に司法試験受験生に合格のノウハウを伝授するだけのカリスマ講師ではありません。

 伊藤さんは最近、「会社コンプライアンス」(講談社現代新書)という著書を出しました。この本は近年、わが国で発効された新会社法やJSOX法(日本型金融商品取引法)の骨子をわかりやすくガイドしていると同時に、著者の憲法観の視点から、会社のあるべき姿に提言をしています。
 こうしたユニークで説得力ある著作を可能にしているのは、伊藤さんが現実に司法試験受験スクールの経営にも携わっているからだと思います。

 本著の内容は、企業人にとっても、また社会の変化を理解しようとする一般人にとっても役に立ちます。具体的内容は実際に手を取って読まれるのが一番ですが、(特に後半部分で展開される著者の主張は、憲法を考える良い機会になると思います)ここでは、3点ばかり以下に整理したいと思います。

1、コンプライアンスとは何か。
 コンプライアンス(企業の法令遵守)とは、要するに、企業が経営活動をするにあたり、単に利潤を追求するばかりではなく、社会的存在として情報を開示する責任を持ち、顧客・消費者を満足させ、環境保全に取り組むといった諸事項を守るべきであるという理念を土台にした諸法令を意味する。

2、コンプライアンスが必要になってきた背景
 社会が企業に要求するものが広がってきたため。大きく3点がまとめられる。
@、グローバリズムによって官庁内、企業内、グループ間だけで許されてきた身内の論理が通用しなくなり、国際基準の開かれたルールに晒されるようになったため。
A、国民、消費者が企業に対して情報開示し、監視する意識が高まり、違法行為を示談ではなく、裁判によって決定するようになってきたため。
B、行政指導による従来の調整型事前規制ではなく、規制緩和による救済型事後規制の社会に変わってきたため。

3、コンプライアンスが守られない場合の制裁
@法的制裁 
 A、刑事上の責任追及(重罰化の一途をたどっている)
 B、民事上の責任追及(損害賠償金が巨額化している)
 C、行政上の責任追及(独禁法の改正など法整備とその運用が活発化している)
A社会的制裁
 例えば、風評によるブランドイメージの著しい低下や社会的信用の失墜などは予測不可能であり、企業が存続できなくなる事態も起こる。


 最近、企業の不祥事がメディアで盛んに取上げられるようになったのは、今まで隠されてきたことが、コンプライアンスの効果で炙り出されるようになってきたためでしょうし、また隠し通すことが違法を明らかにすることよりも、最終的にはるかに悪い結果を生むことが認識されてきたたでもあるとZENは考えます。企業活動は生活と関わりが深いので、法律が変われば社会がいやおうなく変わるということを国民は肌身で知るようになり、必然的に法意識が今まで以上に高まっていくことが今後、予想できます。
         

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