中西郁夫さんのこと


 中西郁夫さんは、日本語学校の草分けである渋谷区富ヶ谷の「青山スクールオブジャパニーズ」の校長先生。
 今年、開校30周年のとき、ご本人還暦の齢60歳で亡くなられた。僕は以前に、この日本語学校主催の卒業予定学生による日本語スピーチコンテストの審査員をして、お世話になったことがありました。その際、中西さんの人柄に触れて「ああ、本当にすべてを投げうって日本人と外国人の架け橋になっている人がここにいる。」と心を揺さぶられました。
 開校当初は欧米人のビジネスマンが学生さんだったようですが、僕が知った今から十年くらい前には、アジア学生がほとんどを占めていました。ですから、ただ日本語を教えるというだけではなくて、学生の就職とか生活の面倒を見るということがあった。べらんめえ調でしたが、すべての生徒さんと分け隔てなく家族のように接しておられたのが印象的でした。タテマエではなく、ホンネでつきあっていた。それは人間として当たり前のことですが、我々日本人にはなかなか身につかない習慣です。

 日本に旅行や仕事で来ている”外国人”や、日本に住んでいる”外人さん”に対して、偏見を持っている日本人はまだまだ多い。外人だろうが日本人だろうが、人間として全く同じなのに(考えや信仰、主義主張はそれぞれ違うでしょうが、それは当たり前のことで、しかし、それ以前にみな同じ人間です)、枠を設けて特別な目で見たりすることは間違いだし、第一、損だと思っています。
 中西さんは開かれた人だった。人間味の豊かな人だった。
 インテリは、本とか伝聞の知識とか外見などの判断から、○○人はどうだとか、○○人はこうだとか、日本人お得意の血液型分析のように踏み絵をするが、僕はそういう分別くさいが、何もわかっていない態度だけは取りたくないと思っています。なぜなら、それこそが島国根性丸出しの世界の田舎者の態度だからです。

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