風餐人写真家 森山大道


 恵比寿の東京都写真美術館での森山大道回顧展(+新作展)の最終日に間に合いました。

 観客は若者が95%くらいでしょうか、大変な熱気なので驚きました。
 森山大道といえば、今年70歳になる人ですから、普通なら”過去形”で語られるべき人でしょうが、最新作のハワイを出しているわけですから、現役バリバリです。会場では、彼が撮影する様子をビデオで流していました。若いですね。大学の先生なんだからそんなことしなくても生きていけるのに、写真にとりつかれたようにアクティブさを維持している。本当に素晴らしいと思う。

 彼は大阪は池田の生まれで、高校夜間部を中退している人です。ですからいきなりプロ写真家になったわけではなくて、苦労しています。細江英公の助手をしていますね。60年代後半に寺山修司と組んだ演劇写真が彼の出世作でしょう。ですから世に出たのは30代になってからです。

 森山さんは関西の出身ですが、たたずまいは寺山修司のようにボソボソと朴訥に話す縄文人のようだ。ずっと白黒写真ばかり一途に撮り続けながら、写真の特権性というものにずっと苛立ち、反逆して来た人だ。写真とは何かをずっと自問し続けて来た人だ。写真を撮ることで、何かを表現してしまうことにずっと異議申し立てをしてきた人だ。その人が30代でスランプに陥り、40代も後半になって、”写真は光と影の化石だ”という認識を得る。これが対象を表現することを否定して、なお写真を撮り続けて来た自分に対する回答だった。彼の網膜に映じた光と影そのものをそのまま再現することを覚悟したのだ。ですから彼は本物ですね。この歳になって、ハワイまで行って、あらゆる対象を見境なく撮りまくっている。それが新作ハワイです。その姿勢に打たれます。

 森山大道は風餐人とも言える。今日も大阪の路地、新宿の路地、世界の路地を徘徊し、光と影を追っている。
 そういう先達に対する素直な敬意を表し、会場を後にした。

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