元代人

 遺伝子学者ブライアン・サイクス博士によれば、現在、チンギス=ハーンの遺伝子(Y GENE)を持つ男性が世界中に1600万人存在するということです。約千年(10世紀)かけて、たった一人の種が巨大な数にまで拡散しているという説は、私には驚きでした。遺伝子の面から人間を見るという新しい視点が開かれました。ヒトの遺伝子は、メスはX遺伝子のみですが、オスのほうにはXとYの二種類があります。チンギス=ハーンのY遺伝子が世界中のオスの1600万の中に宿っているというわけです。

 なぜチンギス=ハーンの遺伝子がそんなにも増殖してしまったのか。

 チンギス=ハーンは、侵略した土地土地で日夜ひたすら SEX に励みまくったようです。動物的に言えば、ひたすらメスと交配し続けたことになります。人間は一年中”発情期”ですから、多産性の動物であることは言うまでもありません。しかしながら、ハーンの場合、毎日1人を相手にするといった悠長なものではなく、複数の女性と乱交を続け、たまりかねた側近がハーンの健康を心配したそうです。

 ハーンが敷いたモンゴル人の社会制度は父権の強いものでした。興味深いことに、これがハーンの遺伝子の発展を促しました。

 ハーンの子を妊娠した女性は、男子を産むことを誉れとされましたから、子々孫々に男系の遺伝子が増加していきます。そして、ハーン以外の子種を持つ男は排除されていきます。ハーンの子供たちは、各地で帝国の領地を分与されて君臨し、支配者として彼らはまた SEX に励みます。こうして世界各地にハーンの遺伝子を持つ人間が増殖していくわけです。Y遺伝子の立場から見れば、自己の遺伝子を維持発展するために、チンギス=ハーンの父権制は有利に働きました。倫理を排し、あくまで遺伝子から見れば、オスが戦争によって他の土地のメスに精子をふりまくことは、人類がより強い GENE を絶やさないための方策と解釈することも可能でしょう。

 チンギス=ハーンが築いた世界帝国の樹立と滅亡の後、アジアでもヨーロッパでも、それまでにはない、ヒトの”オス”によるダイナミックな歴史の動きが開始されていきます。ハーンが植えつけた遺伝子と因果関係があるというのは牽強付会すぎるでしょうか。
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