関東武

 関東平野とは何か。米国の利根川であるミシシッピ川(われわれと同祖のアメリカ・インディアンの地)は、このたびのキャサリン台風(ハリケーン・カトリーヌ)による洪水でおびたただしい水害死者を出した。ミシシッピの今の現状を日本語にあてれば、”見死死比”ではないかとすら思います。日々米国から流れてくる映像や報道を見聞するに、誠に悲惨といわざるをえません。メディアや野党の民主党は、多くの被害者が貧困層の黒人であることから、人種差別の問題に言及しています。

 関東平野のほぼ中央、埼玉県の
鷲宮 に、武蔵国最古の社、鷲宮神社が存します。近くを流れる利根川の氾濫防止にあたって、渡来人と原住民とが互いに力を尽くした美しい和の結晶がここに今も爽やかな霊気となって吹いてます。わが民族神話中のヤマタノオロチという大蛇は、暴れ川を意味します。それを退治するとは何を意味するか。大蛇退治が治水事業の比喩であることは定説です。もっとも、天穂日命の功によって、利根川に堤防がかけられて洪水を防御すると、水面下から顔を出した沃土がたちまちにして黄金の稲穂に変身したというのは、神話によくある誇張です。暴れ川利根川は、つい最近、昭和22年利根の洪水では、一帯が大浸水を起こしています。大蛇退治は神話の世界=過去の世界ではなく、今も変わらぬ私たちの課題です。

 長い歴史と祖先が培ってきた知恵を持つわが民族が、かつて大河川の氾濫に際してどのように対処し、死者をどのように祀ってきたかを静かに目を閉じて思ふ。そして目を開けると、われわれは今、あまりにも米国の価値観の影響の下で、自己の民族の誇りを失っていないか。自分の生まれ育った土地に誇りを持てない民族は、その民族の精神が滅ぶと思ふ。

 再び、関東平野とは何か。関東平野は、米国の五十州からみれば、たかだかコネチカット一州分の面積にすぎません。しかし、現在、わが国土最大の平野(低地)であり、カナダとほぼ同じ人口を擁しています。関東平野が安泰となったのは、徳川治世以降です。地政的には一目瞭然。見渡す限りの低地に城を築いて長くその支配を維持しようとすれば、四方どこから出現するかわからぬ敵を常に追い払わねばなりません。中国にならい、万里の長城のような塁を平野の周囲に築くか、さもなくば頑強な城郭都市を築くかでしょう。歴史をひもとけば、大和朝廷はこの関東平野に渡来人を開拓のために居住させると同時に、敵対する以北の蝦夷との国土防衛ラインとしました。そして、この地にひとたび独立国を建てんとする豪の者が現れると、朝廷は北の蝦夷と懐柔し、合従連衡で、関東平野の豪者を挟撃して抑え込みました。二十一世紀の現在、この地に平和に住まうということは、われわれの文明の叡智にもとづいています。

 唐突ですが、あなたは、東武伊勢崎線に乗車したことがありますか。そして東武浅草から伊勢崎まで、関東平野の眺望を目に入れながら、わが祖国に思いを馳せたことはありますか。
                                 (つづく)
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