立陶記より



あなたの人生でもっとも愛した人、
今は亡き人は、
あなたが生きているのだから、
死んではいない。
目には決して見えぬが、あなたの傍にいつもいて、
あなたに
「生きよ、愛せよ」と、たえず語りかけているではないか。
さあ、立ちあがりなさい。 
                   
(立陶記198)
 
 
立陶(王)は、小さな立陶を
太陽が照りつける岩礁の頂に立てて言った。
「これをユミと名づける」。ユミが生まれた。
ユミは、この世界に生まれて、たちまち姿を変え、
ユミではなくなった。
立陶は言った。「これをユミと名づける」。
ユミがまた生まれた。
ユミはたちまち形を変え、ユミではなくなった。
立陶は言った。「これをユミと名づける」。
ユミがまた生まれた。
ユミはすぐに形を変え、ユミではなくなった。
何度も何度も、立陶はユミを愛した。
ユミはそのたびに、ユミではなくなった。
                   
(立陶記189)


石の表面には
すでに天然の絵が描かれていると嘆き、
画家は筆を取らない。
立陶が来て、石の表を静かにさすって言った。
「石がここにあることを愛するのと、絵を描くのとどちらが大事か」
画家は驚き、ざらざらの石の表を撫でさすった。
指の先が切れて血が流れ、石が赤くなった。
「見るがよい。おまえが石にしたことは何か」
画家は自分がしたことを喜んで、絵を描き始めた。
                   
(立陶記186)


画は、正しさに向かう。
しかも、任侠に従うのである。
小指は、この過ちに、正しく斬られる。
                   
(立陶記198)

BACK